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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)71号 判決

熊本相互銀行

理由

(一)  被控訴会社が被控訴人補助参加人合資会社富士礦油店(後に合資会社吉原礦油店と商号を変更)に対し

(1)  振出日 昭和三〇年一二月一〇日

金額 九万一、二〇〇円

支払期日 昭和三一年二月二六日

振出地支払地 芦北郡芦北町

支払場所 肥後銀行佐敷支店

(2)  振出日 昭和三〇年一二月二三日

金額 五万三、三三〇円

支払期日 昭和三一年二月二六日

振出地、支払地、支払場所(1)に同じ

(3)  振出日 昭和三一年一月一六日

金額 八万円

支払期日 昭和三一年三月二四日

振出地、支払地、支払場所(1)に同じ

(4)  振出日 昭和三一年一月一六日

金額 八万円

支払期日 昭和三一年三月二九日

振出地、支払地、支払場所(1)に同じ

なる四通の約束手形を振出した事実は当事者間に争ない。

(二)  控訴人は被控訴人補助参加人より前記(1)の手形を昭和三〇年一二月一二日(2)の手形を同月二五日(3)と(4)の手形を昭和三一年一月十八日に譲渡裏書を受けたと主張し、原審証人堀和真、当審証人城谷義徳も右主張に副う証言をしているが右証言は後記証拠に照し措信し難く、他に右裏書が通常の譲渡裏書であることを確認するに足る証拠はない。

却つてその振出部分の成立については争なく、その裏面の裏書部分の記載は前掲堀和真の証言により真正に成立したと認められる甲第一なしい第四号証によると前記(1)ないし(4)の手形の裏書欄にはいずれも「取立委任候ニ付」という文言が記載してあつて、譲渡裏書或は担保のための裏書なる旨の記載がないが、手形上の権利の内容範囲は証券上の記載によつて決定され、証券外の事由をもつて変更されないという手形の特質からいつても右各裏書は表示されたところに従い取立委任裏書と解する外はない。控訴銀行は右各手形はこれを同銀行の補助参加人に対する貸付金の担保として提供させるつもりで受取り、その帳簿にもその旨の記載をなしていると主張し、前掲証人堀和真、城谷義徳の各証言はこれに符合するけれども、一方原審証人吉原誠三郎の証言によれば、控訴銀行は本件手形の裏書人たる補助参加人に対し、右手形を担保の意味で裏書を受ける旨を明示したこともなくまた担保差入証等の文書を差入れさせたこともなく、更に補助参加人は、本件手形を担保の趣旨で控訴銀行に裏書譲渡する旨を承諾したことなく、本件手形は普通の取立委任裏書として裏書したと証言し右証言は信を措くに足りると思われ、且手形を担保に差入れる場合には取立委任裏書でなく譲渡裏書がなされるか担保の為なることを明示して裏書がなされるのが普通であるのに、本件手形の形式は明らかに取立委任裏書である事実を参酌すれば、たとえ控訴銀行においては、これを裏書人たる補助参加人に対する債権の担保に取るつもりで取立委任裏書をなさしめたとしても、補助参加人としては、これを承諾していないと認めるのが相当であるから結局右手形を担保とする契約は成立していないといわざるを得ない。

仮りに補助参加人が本件手形を担保として提供することを承諾して取立委任裏書をしたとしても、右担保の特約は手形外の効力を生ずるにとどまり、振出人たる被控訴人に対しては控訴会社は単に取立委任裏書の被裏書人としての権利、すなわち裏書人たる補助参加人を代理して取立権能を有するにとどまる。従つて被控訴人の補助参加人に対して有する抗弁の対抗を受けることを免れない。(被控訴人が、右の如き手形外の特約を知つていた場合は別論であるが、そのような事実を認めるに足る確証はない)

(三)  而して原審証人吉原誠三郎の証言によると、被控訴人は補助参加人に対する本件手形債務乃至は手形振出の原因たる債務の全額を補助参加人に既に支払つていることが認められ、右認定に反する証拠はないから、被控訴人は右弁済の事実を以て控訴銀行の本件手形上の請求に対抗し得るものである。

(四)  以上のとおりであるから、控訴銀行の被控訴人に対する本訴請求は失当であつてこれを棄却した原判決は正当である。

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